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吼える月
第29章 変現
「【海吾】の皆がいるでしょう?」
「あいつらですら、普通に話せるようになるまでに時間がかかった。そして話せるようになっても、あいつらは……帰るべき場所がある。その場所には、オレは必要がない」
ユウナは考える。
つまり、シバは――。
「シバは……愛されたいのね」
「え!?」
シバは眉間にくっきりと縦皺を刻んで、ユウナを見る。
そこまで大仰な仕草を見せるのは、それを本人が自覚していないからなのか。そう思えば、シバが小さな子供みたいで可愛くなってくる。
「だってシバが自分で言ったんじゃないの。あたしが羨ましいって。それは結局、あたしが皆から愛されているように見えるからでしょう?」
――お前はオレと同じような煌めく髪をしているのに、お前は皆にすぐ受けいられて愛されて。
「っ、それは無意識で……」
「無意識こそが本音でしょう? だけどね、知ってる? 愛されるためには、誰かを愛さないといけないわ。シバは皆から愛されたいと思っても、皆を愛そうとしているかしら? いつか離れてしまうものだと、思っていない?
そうね、たとえばあなたの大好きなギルにですら、ジウ殿の命令で自分を嫌嫌面倒を見てくれてただけじゃないかとか、ぐだぐだ。あれだけギルがシバの無事を喜んでいたのに、その後もあれだけ青龍からもギルの思いを伝えてくれたのに、それを素直に信じられないで、ぐだぐだ」
「……っ」
本人は本気で悩んでいたのだが、"ぐだぐだ"扱いされたシバは、図星を指されたせいでじっとりと汗を掻いていた。こうした反応はジウ譲りである。
「それがシバの持つ"壁"よ。いくらあたし達がシバに打ち解けようとしても、"光輝く者"なんて関係ないと普通に思っていても、あなた自身が自分に偏見をもって、いずれ離れてしまうと決めつけている。あなたが、あたし達を信用していないで壁を作っているの。
それは、自分と同じ"ひとりぽっち"ではないからと、自分と理解しあえないと……僻んでいるだけよ。あたし達は、"哀れみ"でシバと接しているわけではないのに」
ユウナは優しく微笑む。