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吼える月
第29章 変現
「髪の色に拘っているのはあなたよ。そりゃあ、始めは珍しくてじろじろしちゃうかもしれない。だって、シバの髪の色は……あまりに綺麗だもの。あたしだって、じろじろみちゃったわ」
「綺麗? この髪の色が?」
シバは怪訝な顔をして、自分の長い髪を指で絡めて見つめた。
「ええ、綺麗よ。まるで蒼陵の海みたいな色。きっとあなたを生んだお母様は、綺麗な方だったんでしょうね。よかったわね、シバ。お母さん似で」
「オレは……っ」
「お父さんが好きなんでしょう?」
「違」
「待っていたんでしょう? 息子だと、迎えにきてくれるのを」
「違っ」
シバの焦ったような声は、すべてユウナに上書きされる。
「認めたくないのなら認めなければいい。だって、それはシバの勝手だもの。あたし達が口出しすることじゃないわ」
ユウナの声に、シバは驚いたような顔を見せた。
寂しげな翳りを纏った顔が、興奮したからなのか紅潮している。
青と赤を纏い、月光がシバをさらなる紫色へと染め上げる。
「あら、なんで驚いているの? 別にあなたに、"お父さんはあなたを護ろうとしていたのよ、わかっているのなら早く和解しなさい"…なんて言わないわ。どんなに他人以上の険悪な関係を見せつけて、近寄ろうとしないようにしていても、遠くからちらちら見て気にしているのばればれだとか、気になるなら早く行けばいいのにとかなんて不器用なんだろうって思っても、決してシバに言って押しつけたりしないから安心して!」
ユウナはカラカラと笑いながら、シバの肩をポンと叩いた。
「お前~~」
「だけどね、シバ。ちゃんと心を伝える時期を逃さないで」
突如真剣な顔になったユウナに、シバははっと息を飲む。
「あたしはお父様に言えなかった。嫁ぐ日が決まっていたのに、今まで育ててくれてありがとうと言えなかった。そして言おうとしたら……亡骸だったわ」
目に一杯にたまった涙。
ぽろぽろと頬に落としながら、それでもユウナは続ける。