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吼える月
第29章 変現
「人間はずっと生きているわけではないわ。最強の武神将……ハンですら、あたしがこっちに来ている間に……死んじゃったの。また会おうねっと約束したのに! ハンもサラも!!」
「あいつの……親か」
シバも真剣な顔で、ユウナから零れる涙を次々に指で拭う。
「ええ。あたしもサクも、親がいなくなってしまった。会いたくてももう会えないのよ、もう声も聞けないの。……あたしにしてみたら……シバが羨ましい!」
「オレが?」
シバの両手がユウナの両頬にかかり、泣きじゃくるユウナを見る。
「ええ、あなたには生きて、見守ってくれている親がいる。そしてひとりでも生きていられる術がある。その素敵な髪の色を隠さずに、堂々と生きていられる。あたしは……この色になってしまった時、隠したの。だけどあなたに会って、それは違うと思ったわ」
ユウナもじっとシバを見遣る。
「今の髪の色も、あたしには変わらないの。髪の色であたしが変わるわけはないのよ。あたしも、変わらない"自分"に誇りを持ちたい」
「誇り……」
「あなたのように、力強く……これが自分なのだと。
そう周りに言える強さをあたしも持ちたい……っ。
このまま、亡国の姫にはなりたくないの。あたししか出来ないことをしたいの。追われる身ではなく、前とは違った形で……堂々と……」
「もうなっているじゃないか。お前は、【海吾】の皆を救った」
シバの声は優しい。
「違うわ、救ったのはギルよ。あたしはすべてが中途半端で、助けられてばかり。サクやシバのように、あたしだって……護りたいのに」
「だったらオレは……」
シバは微笑んだ。
「そんなお前を護りたい」