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吼える月
第29章 変現
 

「え?」



「オレにとってギルが帰る場所だった。だが【海吾】が事実上解体され、ギルは、オレだけのものではなくなった。もっと広い世界に生きる…青龍であり、あの男の弟であり、……皆のギルになった。

正直、今あの中でオレは生き難い。まだ自分の中で認めていないのに、あの男の子供と思われるのも嫌だ。

オレは、オレとして生きたい。

そして、お前が望む世界を……、オレの帰る場所にしたい。


優しいお前が笑える世界に、オレは行きたい……」



 切なげに揺れる瞳。

 それは熱を孕んで潤んでいる。



「愛されることが、愛すことなら……。いや、たとえ愛されなくても、オレは……」


 シバの顔が傾き、近づいてくる。



「ちょ…ちょっと、ちょっとシバ!」


 ようやく状況を客観視できるようになったユウナが慌てた時、






「シバ――っ!!」





 突然割り込んで来たのはサクの声。



 そして――。


 
 ユウナの唇に……その顔を近づけたままで止めているシバから、サクはユウナを奪い取った。


「お、お前、お前!!」


 怒りと焦りに目を潤ませるサクの前で、シバはにやりと笑う。



「……やっと来たか。覗き魔め」

「知ってて……お前、知ってて!?」


 サクの声が裏返る。



「武神将とはいえ護衛なら、飲んで喋ってないで、ユウナを護れ!」

「わかってるよ! ああくそっ……」


 ぶつぶつ言いながら、ユウナの横に座り、サクはユウナをぎゅっと抱きしめ、目でシバを牽制した。


「駄目だからな!」

「ひとの前でいちゃつくな」

「うるせぇな、お前が姫様に不埒なことをしでかすからだろ!? 護ってるんだ!」

「お前みたいな不埒なことをオレがするか!」

「へーそーですかー。随分と情熱的にみえましたけどー? ……お前天然タラシかよ!」

「お前と一緒にするな」

「俺は姫様一筋ですっ!」

「へーそーですかー」

「お前なぁっ!」


 ユウナが声をたてて笑い出した。

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