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吼える月
第29章 変現
 

 無理強いはしたくなかった。

 ジウにもそれだけは告げたのだ。もしもシバが同行を拒絶するのなら、連れて行きたくないと。あくまでもシバに決めさせたいと。それについて、ジウは了承した。

 
 これはただの観光ではないのだ。倭陵が傾きかけている今、この先、どんな困難が待ち受けているかわからない。

 それなら、蒼陵にいた方が安全かもしれないし、逆にゲイが攻め込む可能性もある。


 どちらにしても、イタチが回復しないと勝利が見えないのだが。


「おう、じゃあ返事を明日の朝に……」



 その時だった。




「お嬢、猿!! ちょっときて、大変なんだ!!」




 イルヒの甲高い声が響き渡ったのは。



 なにか非常事態が起きたのかと思い、急いで振り返ったふたりは、イルヒが飛び跳ねながら、大きく手を振っているのを見た。


「早く、早く!! こっちに来て!!」


「どうした、なにが起きた!?」


「まずは部屋の中を見て、あたいの口からは言えない!! 早くったら!!」



 サクはユウナと走る。



 そして――




「この部屋だ」



 イルヒが指さしたその部屋の前には、イルヒ以外に大勢の者達が集まっていた。灯のついているその部屋にふたりが入った途端、突然に背後にした扉がしまったのだ。

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