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吼える月
第29章 変現


「おい、ちょっ……」


 扉は開かない。外側から栓がなされているようだ。

 ……騙されたらしい、イルヒに。


「開かないよ~。しめちゃったもんね~」

「冗談はやめろ、イルヒ!!」



「冗談じゃないよ。これはあたい達からの、感謝の贈り物さ。中々ふたりきりになれなかったろう? ……猿、お嬢と朝まで仲良くね」

「はあああああ!?」

「さあ、あたいはあたいでがんばろっと」

「イルヒ、おいこら! がんばらなくていいから、ここから出せ! 俺、酒飲んでいるんだよ、いつもより自制心が……イルヒっ! おい皆!!」

 だが聞こえるのは意味ありげな笑いばかりで、足音が遠ざかっていく。



「朝まで……って……」



 青龍の模様が施された、簡素だが小綺麗な部屋の中には寝台がひとつ。


「何の仕打ちだよ……」



 寝台の脇机には、遊戯用の絵札があった。



「青龍殿で……なにをしろってんだよ……」



 サクは、顔を片手で覆いながら、扉を背にしてずるずると崩れ落ちた
 

「まあ、絵札があるわ! サク、懐かしいわね。また遊びましょうか」


 ユウナは、イルヒを含めた蒼陵の民が意図したことがわからずに、脳天気ぶりを発揮する。

 男とひと晩過ごすのに、危機感を持たれないのは、やはり意識されていないからだと……落胆しながら、サクは絵札を拡げたユウナの背後に回り、背後から抱きしめた。



「姫様……、そんなことより……"いい話"、教えてくださいよ……」


 酒気を帯びたサクの熱い吐息が、ユウナの首筋を掠める。



「い、いい話……」


 現実に返ったユウナは、手から絵札をばらばらと零して固まった。








****************

読者の皆様

いつもご覧下さりありがとうございます。

青龍編も残すところあと僅かになりました。
ようやくというべきか、ここから先は、サクとユウナふたりの世界に入りますが(笑)、第三章朱雀編も、残されている謎や恋愛を引き継いでおりますので、引き続きお楽しみ下されば幸いです。

ここまでお付き合いありがとうございました。

2015.12.13 奏多 拝








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