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吼える月
第29章 変現
元々"いい話"をする気ではいたユウナであったが、呪詛や勇気の問題が出てきたために、後で安全策を考えようと先延ばしにしていたところ、サクの方から強請(ねだ)られたことで、激しく動揺してしまった。
呪詛以前の問題だった。
語る心構えをする前の、無防備な自分の核心を突かれたのだ。
今のユウナは、意識は真っ白、身体は石のような凝固状態だ。
「姫様、俺にとって"いい話"なんですよね?」
サクの声は、ユウナの気持ちを知ってか知らずか、男としての艶と甘さを含む。それは、ユウナが何度も聞いた睦言を彷彿させるもので、彼女は、密やかに身体の芯を火照らせてしまう。
「姫様?」
「………」
「……なに、がっちがっちに固まっているんですか?」
「………」
耳もとに聞こえる囁くようなサクの声が、やけに色っぽく感じるのは、"そっちの方"を考えてしまう自分がいやらしいからだと思えども、硬直する身体の中で、唯一心臓だけがうるさく跳ね続け、口からぽとりと飛び出てしまいそうだ。
「姫様?」
「………」
「姫様……なんでだんまり?」
「………」
「"いい話"、教えて下さい……」
「………」
サクとしては、ユウナを抱きたい衝動を沈めるために、神経を他に集中出来る別の話題が欲しかったのだが、それがわからないユウナはまるで動かない。
「姫様……」
ユウナの頭の中には、"いい話"という言葉がぐるぐる回る。
リュカの呪詛がなかったとしても、今が本人に気持ちを伝える好機だとわかっているのに、喉の奥がつっかえたように、何も出て来ない。どのように伝えれば呪詛を振り切れるか、まるで良い案が出て来ない。
ユウナは、一生サクに告白出来なさそうに思えた。
それは嫌だ。
負けてたまるか。
まずは固まる自分に気合いだ。
ユウナは、心を落ち着かせるために、引き攣ったように息を吸い……、
「姫様、変な息してません? ……大丈夫ですか?」
「うい~っ」
……気合いの息と共に吐き出した言葉は、ただの奇声。