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吼える月
第29章 変現
 

「なんでリュカはそんなことを……」


 リュカの虚言を聞いたユウナは、それがあることに結びついた。


「まさか……"代償"って、逃がしてくれることに対してってこと!?」


 リュカは、最初から逃がしてくれる気だったというのか?

 呪詛をかけるほど憎んでいるというのに!?


「代償? 姫様、なにかされたんですか!?」


 ユウナの零した言葉を拾い上げて、サクの顔が険しくなった。 


「まさか……また、呪詛をかけられたとか……」


「違うわ、違う! ええと……」

「姫様! 本当に穢禍術、かけられてませんよね!?」


 サクの真剣な顔に、ユウナは驚きながら反射的に、頷いてしまう。


「よかった……。あんな姫様、もう見たくねぇ……」


 サクの心からの安堵に、ユウナはたまらず聞いた。


「あたしが呪詛にかかっている時って、そんなにひどいの!?」


「ひどい……というわけではねぇんですが、男として……ツボを突きまくられるというか。それで煽られて命懸けで突いても、終わりが許されないなんて……あ、独り言です」


 サクの意味をよく理解出来なかったユウナは、やはり呪詛のことは伏せようと思った。

 とすると、まだサクには好きだと言えない。

 
 だがこうも思うのだ。


「……姫様。リュカが姫様に情があるかもしれないとわかって、姫様の心は動きますか?」


 リュカに情があったら、呪詛をかけ直していないかもしれないと。

 ただの脅しの可能性の方が高まらないか。


 だとすれば、それが本当か否か試してみるしかない――。


 そして、あることを思いつく。

 想いを伝えるといっても方法は様々だ。

 それならば、直接的な言葉を遣わなければいいのではないか。


「動かないわ。だってあたしの心の中には……」


 ユウナはサクを見つめた。



「サクがいるんだもの」


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