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吼える月
第29章 変現
万感の想いを込めたユウナだったが――。
「それはそれは。ありがとうございます」
身に何も起こらないばかりか、サクに軽くあしらわれてしまった。どうやら真剣に……重く受け止められてはいないようだ。
「あたしの心の中に、サクが居るって言っているのよ!?」
喜ばれるか拒絶されるか。或いは驚いて石のように固まるか。
それしか考えていなかったユウナにとって、サクの反応は到底受容出来るものではなく、焦り半分思わずムキになるが、幾度繰り返しても呪詛もサクも反応は変わらない。
「これだけ長年一緒に居て、それで心の中に俺が居ないなんて言われたら、やってやれませんよ」
サクにけらけらと笑われて、はい終了。
サクには、ユウナの言葉は遠回し…すぎてしまったのだ。
ひと度、戦闘体勢に入れば、常人にはありえない直感力で相手の先を見ることも出来るのに、それ以外では、言葉の意味すらロクに理解出来ずに、それゆえに皆から"馬鹿"と言われていたサクである。
元来、心の機微を求められる…特に色恋沙汰には疎くて、言葉から愛を悟れる程の経験もなかった。サク自身、他の女から言葉で愛を語られたことは多多あったが、ユウナ以外には興味がないサクの恋愛経験は、結局なにひとつ磨かれていない。
如何せん、サクの報われない片想い歴が長すぎたのに加え、ユウナが、いつも傍に居るサクならば、どんな言葉でも意味を悟ってくれるだろうと思い込みすぎてしまい、結局、婉曲した言葉に込められたユウナの愛は、宙に浮いてどこかに飛んでいき……、どこにも着地することはなかった。
……言葉を婉曲したのは、呪詛の具合を測りたいためが大部分を占めてはいたものの、恋愛初心者同士が互いの恋情を悟り合うには、高度すぎる技術だったのだった。