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吼える月
第29章 変現
 


 だが――。


「なんですか、その好き好き攻撃は。そんなに念を押さずとも大丈夫です。わかってますって。いつもいつも姫様に、大好き言われてたじゃねぇですか。忘れてませんから!」


 これだけ明瞭な言葉でも、伝わっていない…。

 ユウナは白目を剥いてそのまま倒れそうになった。

 女としてではなく、幼馴染みとして……、大好きだと告げていたのが祟ってしまっているらしい。勿論それはサクだけではなく、リュカにもハンにも父にも言っていたものだ。

 

「サク、真剣に聞いてよ。あたしがサクを好きなのは……っ」


 サクが手をとった。


「姫様。一生懸命なところ悪いですが……、俺も男です」


 その眼差しは、おどけたところはなく、怖いくらいに真剣だった。

 熱を孕んだ瞳の奥で、情欲の炎がちらちらと揺らめいている。

 それは、サクが"男"を見せた瞬間だった。

 
「こんなに近くで、好き好き力説されりゃあ、姫様にその気がなくても、勝手にいいように勘違いしちまいます。それじゃなくても、寝台はひとつ、邪魔はいない……こんな中、朝まで俺達ふたりきり。

……俺が勘違いして、姫様を襲ったらどうするんです?」

「……っ」


「酒を飲んでるんで、いつもより自制心に自信がねぇんです。だから俺を煽らないでくだ……」


「いいわ」


 ユウナはサクに抱きついた。


「最後まで……してもいいわよ」

「姫様っ、冗談は……」

「冗談じゃないわ。それであたしの気持ちが伝わるのなら」


 ユウナはサクを見上げた。

 驚きだけではなく、不安と期待を入り交じったその顔で、瞳を大きく揺らしながら、サクは煩悶しているような表情でユウナを見つめている。

 降って湧いた幸運に、サク自身、半信半疑なのだ。


「姫様の気持ち……?」


 だが、半分でも信じる心があるならば――。
 
 どうかサクに……伝わって欲しい。

 どんな言葉より、率直な自分の気持ちを。


「ええ、あたしの気持ち」


 ユウナは祈るようにして、熱意を込めてサクを見つめた。


 サクの熱い視線が絡みついてくる。

 その真意を促しているかのように。

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