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吼える月
第29章 変現
  


「……まさか……、眠くておかしなことを言い出してたんですか? 姫様……ちょっと本気になりかけてた俺、どうすればいいですかね?」



 ずきっ、ずきっ。


 返事が出来ない。言葉を出せない。

 身体を起こせない。


 痛みに震える身体から、冷や汗がじっとり肌に滲んでくる。

 そしてぞくぞくと背中に駆け上るのは悪寒。


「……姫様、もしや……熱、出てません? 身体が熱い」



 ずきっ、ずきっ。


 肉を削がれているかのような、脳天に響くような疝痛。


 ああ、この痛みは覚えがある。



 涙で滲む視界の端に、敷布を掴む自分の手が見える。

 袖が捲れたその手首に、妖しい模様が浮き出ていた。


 邪痕、なのだろう。



 今、この痛みは……呪詛のせいだと、悟ったユウナは涙した。


 リュカの呪詛は、本当にかけられていたのだ。

 ちゃんと発動条件を告げられていたのに、それを信じず……自らが招いた重篤状況。自分の浅はかさが口惜しい。

 この呪詛は、伝えたい愛の言葉に遅れて発動されるのか?

 両想いになれるはずの言葉を遮った呪詛。

 
 リュカは、自分がサクを好きだということを見抜いていた。その上で、サクに抱かれているかと、誤解していた節もあった。


 それなのに、言葉を封じることを呪詛にするのだろうか。

 自分だったら……。

 これ以上、心を通い合わせられないような呪詛にする。



 そしてユウナは、気づいたのだ。

 呪詛の正体の可能性に。


 それはもしかすると――。

 
 サクの手が額にあてられた。


「うわ、やっぱすげぇ熱! 寝かせないと……」


 ユウナは、震える手でサクの手を握った。


「ごめ…んな…さい……」


 ユウナは焦点がぼやけるその目を、涙で濡らしていた。


 呪詛の正体の可能性――。

 新たにかけられた呪詛の条件。


 ユウナは、苦痛にもがく最中、こう考えたのだ。

 呪詛が発動したのは、サクに愛の言葉を告げたからではなく、サクと想いを通い合わせようとしたのが、いけなかったからだと。
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