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吼える月
第29章 変現
 
 

「姫様……っ、手……っ、これ邪痕じゃねぇか! 姫様の瞳……紫がかってる!」



「サク……ごめんな……さい……」


「なんでこんな時に呪詛が!!」


 愛し合いたいと望んだ。

 サクに喜んで貰いたいと思った。

 自分も喜びたいと思った。

 
 長かったふたりの関係を、未来の希望に繋げたかった。


 ようやく気づけた想いを、伝えられなくなってしまった。

 その想いを抱えている限り、サクの負担になってしまうことになった。


 それが、ユウナにとって一番の苦痛だった。


「姫様、これから鎮呪します。まだ紫の瞳も邪痕も濃く出ていない今なら、すぐ収まるかも知れねぇ。もとより解呪出来てたわけじゃねぇんです。だから、ありえることだと、気を確り持って下さい。

これから俺がするのは、姫様を助ける"治療"です。だから……我慢していてください。……愛してもねぇ男に抱かれることを」


 ユウナの両目から、涙が零れた。


 違う、違うの……好きなの、愛しているの。


「大丈夫。俺を信じて」


 悪寒に震える唇からは、言葉を紡げず、苦しげな荒い息しか出て来ない。

 否、サクをより危険に落とす、愛の言葉を出してはならないと、ユウナの理性が何度も警告を発している。

 もしもサクに届く愛を告げたら、呪詛の影響は今よりも悪い状況をもたらすと。サクが惑う程度だから、このくらいの苦痛ですんでいるのだと。

 言い捨てられればいいが、自分が言うことで呪詛を発動され…結果、自分を救おうと、サクがより境地に陥ることになるのなら、言葉を紡げない。それは身勝手すぎる恋情だ。


 想いを伝えたいのに……。

 愛し合いたいのに……。


 サクが……喜んでくれたら、幸せなのに……。

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