この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第29章 変現
「姫様……っ、手……っ、これ邪痕じゃねぇか! 姫様の瞳……紫がかってる!」
「サク……ごめんな……さい……」
「なんでこんな時に呪詛が!!」
愛し合いたいと望んだ。
サクに喜んで貰いたいと思った。
自分も喜びたいと思った。
長かったふたりの関係を、未来の希望に繋げたかった。
ようやく気づけた想いを、伝えられなくなってしまった。
その想いを抱えている限り、サクの負担になってしまうことになった。
それが、ユウナにとって一番の苦痛だった。
「姫様、これから鎮呪します。まだ紫の瞳も邪痕も濃く出ていない今なら、すぐ収まるかも知れねぇ。もとより解呪出来てたわけじゃねぇんです。だから、ありえることだと、気を確り持って下さい。
これから俺がするのは、姫様を助ける"治療"です。だから……我慢していてください。……愛してもねぇ男に抱かれることを」
ユウナの両目から、涙が零れた。
違う、違うの……好きなの、愛しているの。
「大丈夫。俺を信じて」
悪寒に震える唇からは、言葉を紡げず、苦しげな荒い息しか出て来ない。
否、サクをより危険に落とす、愛の言葉を出してはならないと、ユウナの理性が何度も警告を発している。
もしもサクに届く愛を告げたら、呪詛の影響は今よりも悪い状況をもたらすと。サクが惑う程度だから、このくらいの苦痛ですんでいるのだと。
言い捨てられればいいが、自分が言うことで呪詛を発動され…結果、自分を救おうと、サクがより境地に陥ることになるのなら、言葉を紡げない。それは身勝手すぎる恋情だ。
想いを伝えたいのに……。
愛し合いたいのに……。
サクが……喜んでくれたら、幸せなのに……。