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吼える月
第29章 変現
ユウナの涙は、悔しさからだった。
だがそれを悲しみと捉えるサクは、罪悪感を顔に出しながら謝る。
「姫様、すみません……」
ユウナの衣がすべて剥がされた。
サクの目の前に、熱に紅潮した艶めかしい身体が拡がる。
愛しい少女の裸体を見て、平然としていられる程サクは大人ではない。
サクは、自らの太腿に爪を立て、迫り上がる情欲を無理矢理捨てた。
この嫋やかな身体が、どれだけ自分を乱していくのか知っているからこそ、邪念として、睦み合いの真似事をした過去を切り離さないといけない。
この少女を愛おしいと思ってはならない。
愛で、抱いてはいけない――。
サクの心が悲鳴をあげていることを、知らぬふりをして。
薄紅色の肌に黒く浮かぶ、邪痕。
だがその色は、以前のものよりも薄かった。
ユウナの瞳もまだ黒みがかっており、見る者を魅了するような、あの妖しげな紫色にまでにはなっていない。だがそれも、時間の問題だろう。
発作の程度からして、以前よりはまだ症状が軽いのだと思ったサクは、だからこそ今、すぐに鎮呪しなければならないと、身体に神気を高めることに集中する。
「"治療"します。前ほどは時間をかけずにすむと思います……」
ユウナはぼんやりと、強張った顔をしているサクを見ていた。サクの余裕のなさが、この呪詛の深刻さをユウナに物語る。
いまだ身体はずきずき痛むが、サクを危険に陥れたくないという理性が、かろうじて痛みに勝っていた。
自分も、痛みという呪詛と戦わないといけない……。
自分だけ、逃げては駄目だ。
その気力が、彼女を意識の底に沈ませずにいた。
サクが上から身体を重ねた。
服越し、サクの体熱がじんわりとユウナに伝わってくる。
「まずひとつ……首から」
自分を優しく抱きしめるようにして、首筋にそっと触れたサクの唇。
ほぅと息を乱したのは、どちらが先か。
サクの唇を思った以上に熱く感じたユウナは、悪寒に戦慄(わなな)く身体を大きくぶるりと震わせた。