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吼える月
第29章 変現
どうして俺じゃない?
どうして相手がリュカだ?
部屋に殴り込んで、ユウナを奪い去ろうという気持ちが渦巻いて、何度も何度も必死で理性を総動員させ、邪念を消し去っていたあの日。
その夜が、自分の恋情の終焉だとわかっていて、尚も断ち切れないユウナへの激しい恋心。ふたりが幸せになって欲しいと思う反面、奇跡でもおこって……ふたりが婚姻しなくなってくれればいいとすら思った、あの日。
ふたりの幸せを心から願えなかったその日の夜、ユウナはリュカに抱かれるどころか、裏切られて呪詛までかけられてしまった。……自分の目の前で。
それでも……、ふたりの絆は切れない。
呪詛をかけても、呪詛をかけられても、ふたりの間には憎悪を超えたものがあった。それが"愛"だと思うサクは、胸が押し潰されそうになるのだ。
今思えば――
ユウナの危機には、必ずリュカは現れ、手を差し伸べる。
黒陵でユマがしでかしたことの騒動を、抑えたのもリュカ。
港から出る時も、力をうまく使えない自分に代わって、海から攻めてくる餓鬼を抑えて出航させてくれたのもリュカ。
不可解な行動の意味に気づいたのは、あの船でのことだ。
あの船の時、あの夜に口淫されるのを拒絶していたリュカが、ユウナを襲うことは、サクには考えられなかった。リュカにその気があるのなら、あの夜に至る前に、とうにユウナはリュカのものになっていたように思うのだ。
リュカは、自制心が強い人間で、性の衝動すら強い意志で押さえ込む……そんな人間だからこそ、あの夜の裏切りは成功できたのだと、サクには思えてやまなかった。
ゲイがユウナに手を伸ばすの後回しにしたのを聞き、リュカはユウナをゲイの手から助けようとしている…そのまさかの可能性を思った。そしてユウナが安全な場所にいるのを悟り、可能性は確信へと変わっていった。
だからサクは、船上でユウナを逃がす際に、リュカを見て密やかに笑みを零していたのだった。