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吼える月
第29章 変現
――ふふふ、君がいればユウナは大丈夫だね。
ふと…、昔リュカが自分に言った言葉を思い出す。
――ユウナと僕が全面的に信頼出来るのは、サク…君だけだ。
どんな思いで、笑顔でそれを告げたのか…。
リュカ……今さらだ。
もう俺は、引き返せない。
お前には姫様を返せない。
親父とお袋を死なせて、ユマをあそこまで傷つけても、それでも……どうしても姫様が欲しい。
昔のように、俺はもう……止まれない!
サクは、リュカと対立する意志を見せながらも、リュカの恋心を思い無意識に涙する。
好きだから触れたい、好きだから他に触れさせたくない……。
その思いがわかればこそ。
理解し合える要素がまだあるのに、なぜ敵対しないといけないのだろう。
なんでこうなった。
なんでリュカが裏切ることが、見抜けなかった!
それはやがて、自分への怒りとなる。
ユウナへの愛おしさとリュカへの嫉妬を、自らへの怒りに変えたサクは、息を整え鎮呪を再開し始めた。
「気が整いました。胸の邪痕にいきます……」
ユウナの上に身を沈ませ、邪痕に口を付ける。
視界に見える赤い華を、目を閉じて除けた。
「ん……っ」
甘さを含んだ可愛らしい声が聞こえ、サクの顔が緩む。
これは、リュカがくれた…俺だけの特権だ。
俺の特権で……、姫様の中の記憶を上書きしてやる。
その思いに囚われたサクは、リュカがつけた赤い華を強く吸い、その部分を舌で肌の深層へと塗り込んだ。