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吼える月
第29章 変現
 

「サク……ぅ…」 


 だが、いくらユウナの状態が前回よりはいいからといって、自分がその痛みを体感したわけではない。

 "治ったと思った"だけの曖昧な状態のままだけであり、いつ、おかしな時に発作がぶり返すのかわからない。

 予兆がわからぬままの旅は、難しい。

 状況を安易に考えて、自分事情を優先させるべきではない――きっとそれは、誰が聞いてもそう答えるだろうとサクは思った。


 自分が極限まで我慢していればいいだけの話だ。

 ユウナをこのまま、焦らして焦らして…痛みのことではなく、別のことに集中させながら、そして挿入すればいいだけの話。

 胎内から神気を送り、ユウナを果てさせればいいだけの話。

 "治療"で仕方がないのだと、割り切ればいいだけの話。


 サクは、顔にできた悲痛な翳りを皮肉気な笑みで消し去りながら、恋心がまた悲鳴を上げているのを無視して、ユウナの"治療"に専念しようと覚悟する。


「ねぇ……はぁっ、はぁ……サ、ク……っ」


 サクは切なそうにしているユウナの隣に横臥し、泣き出しそうになっているユウナの頭を優しく撫でながら、その耳もとにわざと息を吹きかけ、甘やかに囁いた。


「俺に……どこを触って貰いたいんです?」



 耳が感じる熱い吐息に、ユウナは思わず甘い声を漏らす。
 


「……ユウナ」



「……っ、ぁぁああ…っ」


 ユウナは反則的なサクの言葉遣いに反応し、細い声をあげると、途端に身体を強張らせるようにして、その後びくびくと全身を震わせた。
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