この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第6章 変幻
「俺がどんな気持ちで姫様を見ていたと思うんですか。どうして俺が姫様を蔑まなきゃなんねぇんですか。蔑むべきは、姫様に犠牲を強いて……なおかつ逃れようもない痕跡の髪色にしてしまった、俺じゃないですかっ!!」
そして激高したサクは、ユウナを抱きしめた。
冷たい体だった。
このまま体温が凍り付きそうで恐くなったサクは、そのまま抱き上げて……岩風呂の中に入った。
そしてサクは、硬質な声音で言う。
「姫様が生きる為に、あの記憶が厭わしいというのなら……俺が消して差し上げます。……俺が、姫様は穢れていないことを証明してみせます」
「サク……?」
熱い湯で、仄かにユウナの肌が紅潮していた。
サクは僅かに息を乱しながら、情欲の炎が揺らぎ始めたその目を細める。
サクは、休憩を兼ねた足湯用に腰掛けられる大きな岩にユウナを座らせた。
湯が膝下の低さになり、立ったままのサクを少し見上げる高さになる。
ユウナは衝動的だったとはいえ、自分が全裸をサクに晒していることが恥ずかしくなり、身を捩るようにして胸と恥部を両手で隠そうとした。
その恥じらう動きが、サクの煽ることを知らずに。
「見ろと言ったのは、姫様でしょう?」
ユウナの耳もとで艶めいた声を出したサクは、静かにユウナの両手を拡げる。
「綺麗です、姫様。途方に暮れるほど」
サクから出たものとは思えぬほど、恍惚とした甘い声と容赦ない熱視線を浴び、ユウナの身体は紅く染まる。
「サ、サク……っ」
「なんですか……?」
今までのサクとはなにかが違う。
濡れた黒い瞳。
湯に浸かって上気している顔。
サクから感じる熱に、湯あたりしたように身体が火照り、息苦しくなってくる。
興奮と不安の丁度中間あたりの心境で、とくとくと心臓が波打つ。
同時に、戦慄とはまた違うぞくぞくとするものを背中に感じたユウナは、サクと距離を取ろうと及び腰になった。
「駄目ですよ。姫様……。俺をひとでなし扱いする酷い姫様には、きっちりわかって貰わねぇと」
一体なにをしようとしているのか。
両手首を掴まれたユウナが不安気に瞳を揺らしていると、サクは跪(ひざまず)くように腰を落とし、
「ん……っ」
その舌を、ユウナの乳房に這わせたのだった。