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吼える月
第29章 変現
「サクの種を……あたしの奥に頂戴? サクの熱いのを、あたしの最奥で受け止めたいの」
どくん。
サクの心臓が跳ねた。
それは、思いきり果てたい心を抑圧するサクの、最大の誘惑となる。
だが誘惑はそれだけに留まらなかった。
「サクが好き……」
突然の、ユウナからの告白。
「治療じゃなく、女として……サクに抱かれたいの。もっと愛に蕩けながら激しく交わりたいの」
「……っ」
「ふたりで気持ちよくなろ…?」
それはサクが心から願っていること。
だがそれを発言したのは、紫の瞳。
それは、ユウナが正気ではなく、魔が支配していることの証なのだ。
切実に愛を訴えるユウナは、本来のユウナではないことをサクは悟っていた。悲しいくらいに、別人だと。
これは魔の誘惑だ――。
ユウナに飽き足らず、自分をも支配しようとしている。
心躍らせたら最後、鎮呪は失敗してしまうだろう。……否、これは失敗させるための誘惑だ。
そうなってしまったら、ユウナは……魔に支配されたままに、自分の屍を踏み越えて、この妖艶な美貌で男達を食い物にしていくかもしれない。
サクの頭の中に、船で見たユマが思い浮かんだ。
いつも笑顔を絶やさず、心優しくて清純だった彼女は、身体に浴びせられた大量の男の精液を、嬉しそうに舌で舐めとっていた。そして魔か動物のように、獰猛に首に噛みついてきた。
詳しく思い返せば動揺に萎えてしまいそうだが、ユウナまであのような姿にさせてはならない。
……なによりユウナを、他の男に抱かせたくない。
あの凶夜のように、傍観している側に立ちたくないのだ。