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吼える月
第29章 変現
 


 前のように顔を見て、そして口づけをしあって、ひとつに溶け合いたい。もっともっと愛しさで心身を蕩けさせながら、ひとつになってふたりで喜びたい――。


 ささやかな夢を壊したリュカを、憎らしく思う。


 ユウナはサクの顔色が悪くなっているのに気づいていた。

 無防備に噛みつかせた首から流れている血が、鎮呪に消耗しているサクの体力を、根こそぎ奪おうとしている。

 
 どうすればいい?

 どうすればあたしは、身体に戻れる?

 どうすればサクを助けられる?

 どうすれば、どうすれば――。


「姫様……いますか?」


 サクから言葉が漏れる。


 いるわよ。

 ここでサクを見ているのよ!!



「姫様……っ、戻って来て下さい……」



 苦しげに、目をぎゅっとつぶったサクの目尻から涙が零れた。


「俺は……っ、姫様がいいんです。姫様を……抱きてぇんだよ!!」


 最後は絶叫に変わる。

 それは恋心を吐露したゆえに、呪詛の攻撃をうけているのだとわからぬユウナも、サクの切実に訴えるその想いに身を震わせ、涙する。


「戻ってこい!!」


 サクが叫ぶ。



「ユウナ!!」



 心臓が跳ね上がる。



「ユウナ、リュカではなく……俺に戻れ!!」



 サクが、絞り出すような声を出した。



「リュカではなく、俺を愛せ!!」



 違うのサク!!

 あたしが好きなのは――。



――忘れるな、ユウナ。


 突如蘇ったのは、リュカの声。



――死ねぬ呪いをかけてやる。


 戻りたい、戻りたい!!

 サクの元に、戻りたい!!
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