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吼える月
第29章 変現
  

――生涯覚えておけ、僕の名を。


 サクだけでいい。

 サクの名前を呼びたい。

 こんな処ではなく、サクに聞こえる場所で。



――僕は……お前が死ぬまで、憎み続ける。


 リュカ。

 お願い、あたしをサクの元に行かせて。

 あたしはサクが好きなの。

 サクを――。



「ユウナっ!!」



――穢禍術をかけなおそう。


 サク、サク!!

 あなたの元に行きたい!!


――サクに想いを伝えようとすると、必ず発症する……そんな呪詛を。


 この想いは、呪詛になんて負けない。

 だけどなんでこんな身体が重いの!?


 あたしは、あたしは――。


「くぅぅぅぅっ」


 サクから血の気が引いている。

 脂汗が凄まじい。

 愛しい男の苦しみに、胸がずきずき痛む。


 ただ…サクを好きなだけなのに。


「くそっ! なんだよ、なんでこうして急に呪詛が強まる!」

 ただ、想いを重ねたいだけなのに。


「またか! 早くユウナの意識を戻さないと…このままなら、魔に身体を乗っ取られてしまう!」



 それは、直感のような閃きだった。
 
 偶然にしては、時期があいすぎやさないか。

 サクへの恋心を募らせたら、サクが苦しみ出している気がするのだ。


 愛おしいサクの元に戻りたいと思うたび、

「ああ! くそっ! 俺が未熟すぎて…呪詛が…消せねぇ!」

サクがこうして苦しみの声をあげるなら、サクを苦しめる呪詛は、自分の想いに連動しているのではないか。

 そうだ。呪詛は自分の想いが関係している。

 サクは無意識に感じ取っているのだ。呪詛が発動するだけの自分の想いを。

 なぜ? 

 それはきっと、身体を繋げているからだ。

 言葉より、身体が……隠しきれない想いを強く物語っているのだ。

 ここでこうしてサクを想っていることで、現実の身体になにか変化を見せているのではないか。



 だとしたら。

 ……この想いが、サクを苦しめるものであるというのなら。


 それなら――。



 サクヲタスケナキャ。



 この記憶を無くせばいい。

 サクを愛した記憶を。

 サクに伝えたい想いを。



 アタシハ、サクヲアイシテル。



 それでサクと、笑顔で一緒にいれるのなら。

 サクを危険に陥れないですむのなら。

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