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吼える月
第29章 変現
 


「ユウナ、ユウナ……っ、俺を見ろ。俺を見て……果ててくれっ」



 サクの眼差しから愛が迸るが、ユウナからすり抜ける。


 サクの匂い。

 サクの熱さ。


 それは幼馴染みとしてのものとしか、思えなくなってくる。



 そうだ、これは治療なんだ――。

 コノコウイハ、チリョウデシカナイ。



 ユウナが納得した時、絶頂感がユウナを突き上げた。


 
「あああああ、ああああああっ」



 
「ユウナ……っ、俺を……俺を見れないのなら、せめて……せめて俺の名を……っ!!」



――さあ、言え、僕は誰だ!?



「俺に抱かれているという、証を俺にくれっ!!」



 サクの声を押し潰すように、リュカへの恐怖が膨れあがる。



「ユウナ、ユウナ俺の名を!!」



 そしてユウナは叫ぶのだ。




「リュ、カ……」



――もう一度言えよ、お前を心から憎悪している男は誰だ!?



「リュカぁぁぁぁぁぁぁ!!」




 忘れてはいけないその名前を。

 記憶から抜けた、想い人の名の代わりに――。


 



「ちっくしょぉぉぉぉぉぉっ!!」



 ユウナは呪詛と共に薄れる意識の中で、サクの咆哮を聞いた気がした。

 それは、ゲイに襲われたあの夜の叫びに似ていた。



 その声音が悲しすぎて涙したのだが、なんで自分が泣いているのか、気づくことが出来なかった。


 サクへの想いは……、ユウナが自ら封じたのだ。

 ユウナが自ら望んで開放しない限り、想いは蘇らない。


 ユウナが自分の記憶に、忘れてはならない…大切ななにかが隠されていると、気づくまでは。





*******


2016年、あけましておめでとうございます!

また今年も、お付き合い下されば嬉しいです。


2016.01.01 奏多 拝

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