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吼える月
第30章 予感
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その夜――。
宴の喧噪から逃れるように、静かな部屋から赤い月を見上げていた青龍の武神将のもとを訪れる者がいた。
「お前だろう、あいつに入れ知恵したのは」
彼がゆっくりと振り向くと、そこには青く煌めく髪をした……美麗な若者が立っていた。
若者の面影は、彼が愛した女に瓜二つ。
彼と若者は誰よりも近しい血を持ちながら、心の距離はかなり遠かった。
そうさせたのは彼。
若者を生かすためにしたこと。
若者は戦いにおいて、自らの認識と違う真実を知ったが、それで今までの態度を変えられるほど器用でもなく、そして……誰の助言より、このままでいてはいけないと、自らが心に急くものを感じ、彼のもとを訪れたのだ。
「あいつに押しつけ、体(てい)のいい厄介払いをする気か!?」
「お前は、サク殿達とではなく、私のもとにいたいのか?」
静かな声に、若者は反論しようとしたが、すぐに視線を床に落とし、そしてまっすぐな目で彼を見た。
「オレは……お前を超えたい。
超えるためには、今のままでは駄目だ」
「超えてどうする?」
「超えたら、オレの居場所が見つかる気がする。今のオレは、ここで生きていくのは、窮屈すぎる」
「なぜ私に言う?」
「強くなれば、きっとお前に対するものも変わると思う。今オレが割り切れないのは、オレが心も弱いからだ。だから…」
その後を紡ぐことが出来ぬ若者に、彼は…足元に置いてある二対のうちのひとつの青龍刀を、若者の前に放った。
「持っていけ。必ず……、生きておれよ」
若者の目が僅かに揺れる。
なにか……いやな予感を感じ取っていた。
「シバよ、強くあれ!」
強い意志をもった彼の目を受けながら、若者はなにかを言いかけて口を噤むと、その視線から目をそらすように顔を背けた。
…彼が強く感じる蒼陵国の危機から、息子を遠ざけようとする父の愛を、若者は知らなかった。
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