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吼える月
第30章 予感
 


 ◇◇◇



 ユウナは身じろぎながら、寝台で目を静かに開いた。

 見知らぬ部屋。
 ここは――。


 服を着たままのユウナの身体の上には、サクの青い上衣がかけられている。それを見たユウナは、この上衣を間近で見ながら揺さぶられ、引きちぎるかのように必死に手で掴んでいた記憶が蘇ってきた。


 あれは――。



――ユウナ!!


「また…"治療"? また呪詛がぶり返したの?」


 サクを危険に合わせる呪詛。

 それを鎮めるために、サクと自分は……。



 重苦しい下腹部。

 熱に掠れたようなサクの声。


 間違いない、激しい性交の名残がある。


 ユウナは真っ赤になって呻いた。


 サクの目が、脳裏に蘇る。


 妖艶な目が揺れて蕩けて……冷たい瞳になって。

 そして自分は、それに悲しくなって。

 治療ではなく、本気で愛し合いたくて――。


「え?」


 自分の心と矛盾した記憶に、ユウナは頭を振った。

 まるで、自分がサクを好きであったかのような……そんな不可思議な気持ちに、切なさすら覚えてきたからであった。


 サクは幼馴染みだ。

 嫁にしたいとは言われ、考えてみるとは言って、何度か睦み合うようなことをしたが、サクに対する恋心はまだ芽生えていないはずなのに。


 大事なあたしの武神将――。


 恋愛感情はないはずなのに、なぜか恋しくて、泣きたい気分になってきた。

 それは、自分の意志がないところで、二度も男女として繋がったゆえの、身体の馴れ合いからか。

 それとも――。
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