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吼える月
第30章 予感
だが、別の可能性を、ユウナは思いつくことはなかった。
ユウナの記憶はすべてあるが、そこからユウナがサクを想っていた記憶だけがすっぽり抜けていた。リュカに船に拉致された記憶はあるが、自分を組み敷いたリュカを拒んだ理由も、二度目の呪詛がどんなものを禁じられたのか、ユウナは思い出せない。
今のユウナにとっての問題は、恋人ではないのに、二度もサクと最後までしてしまったことへの羞恥であった。拒絶感や嫌悪感は、前回同様伴わず。
「どうしよう、どうしよう、どうしよう……」
顔を両手で覆ってじたばたとひとり煩悶して、そしてふと気づく。
「あれ……サクは?」
サクの痕跡がわかるのは、上衣だけだ。
目を擦り、サクを探したが部屋のどこにもどこにもいない。
室内はしんと静まり返っている。
そのうち返ってくるかもしれないと、寝たふりをして再び煩悶していたのだが、あることを思い、がばっと起き上がった。
「まさか!?」
まさかサクは、自分を置いてひとりで旅立ったのではないか。
ユウナの全身の血が一気に引いた。
この上衣が、別れの宣言ではないのか――。
「いやっ、サクっ!!」
ユウナは寝台から飛び降りて走り、勢いよく扉を引き開けた。
すると扉と共に、なにかが声を上げて、こちらに仰向けに倒れた。
「いててててて」
それは――
「お嬢…開けるときは先に言ってよ…」
イルヒだった。
正しくは、その声だけがイルヒのものだった。
「!!!???」
顔の輪郭が変わっていたのだ。
頬と唇が異様なほどに膨れあがり、全体的に大きくなった顔と小さなままの身体が、まるで釣り合っていない。