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吼える月
第30章 予感
被りものでもしているのかと、膨れている頬を摘んでみれば、それは大仰にも聞こえる絶叫を上げた。
「お嬢!! そこは痛いんだよ、なにするのさ!!」
被り物ではないようだ。
その目が涙で潤んでいる。
「ごめんなさい……。その声はイルヒよね? 変な伝染病にでもかかったの!? 具合悪い!? 熱は!?」
「病気じゃないよ!!」
被り物ではない可能性を考えれば、病気としか考えられないユウナに、イルヒは分厚い唇を尖らせ、あぐらを掻いて床に座る。
ユウナはその前に屈んで、イルヒに耳を傾けた。
「化粧をしたんだよ。テオンに可愛いと思われたくて。母さんの白粉をすべて顔につけて、頬紅もさしたのに、唇にさす紅だけがなくて。ちょうどいい赤い粉を見つけて塗りまくったら……唐辛子だったんだ」
それが唇が、いつもの三倍ほど膨れあがっている理由。
イルヒはぐすりと鼻を啜る。
「じんじんが少しよくなったから、寝ているテオンのところに行ったら……テオンが白いお化けと間違えて、あたいのほっぺに思いきりビンタしたんだ。両頬往復……3回」
それが頬が腫れている理由。
テオンも、白い顔の……腫れ上がった赤い唇を持つものに、寝込みを襲われれば、かなりの恐怖だっただろうとユウナは思う。