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吼える月
第30章 予感
「サクちゃん。ワシちゃんは残る理由が欲しかったみたいで、その子と約束しちゃったみたい。鳥さんは、ひとつ約束したら、他のことはできないの」
「だったらなんだ、俺のために残ろうとして、イルヒの文をただ運ぶだけの、なんの面白くもねぇことを、イルヒがいいというまで、やり続けるってことか!?」
ぴぇぇぇぇ~。
「却下だ却下! ワシはもっと大きな仕事を……」
「猿、あたいは取り下げないよ! 最速でテオンと愛を育むんだから!」
「きゃははははは!」
「なに笑ってんだよ、あたいに勝とうとでもしてるのか!?」
「きゃはははは!」
ユエが笑うものは、イルヒの膨れた顔のことだけである。
「だからなに笑ってるんだよ!!」
「おい、こらイルヒ暴れるな、引っ掻くな!! テオンに嫌われるぞ!」
「!」
なんとかイルヒの凶暴化が収まり、サクがため息をついた。
「まあ…ワシ一羽だけでは、全員運べないだろうしな。すぐそこの距離じゃねぇし」
ぴぇぇぇぇ~
鷹は申し訳なさそうに項垂れ、羽を畳んで身を縮めさせた。
しかし、よくイルヒもこんなに大きな鳥を手紙の運搬だけに使おうと思いついたものだと、サクは舌を巻く。
「まあ、だったらワシ。一生懸命働いて、蒼陵の状態を伝えてくれよ?」
ぴぇぇぇぇぇぇ!!
鷹は任せておけと言わんばかりに、元気な声で鳴くと、胸を反り返した。
「お兄さん、緋陵までは僕が船を動かすよ。シバもいるし、大丈夫」
「そのシバが見当たらないわね」
テオンの声を受け、ユウナがきょろきょろと当たりを見回した。
一同が佇んでいるのは、実はシバ待ちなのでもある。