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吼える月
第3章 回想 ~予兆~
「あいつがなんで4年ぶりに優勝したか、あんたに特別に教えてやろう」
そしてハンは再びひっひっと引き攣るような笑いを見せた。
「4年ごと、黒陵で武闘会がやるからだ。な、馬鹿だろう?」
「な、なにが馬鹿なのか……」
「わからねぇ? 優勝者が踊るのは開催国の姫と決まっているだろ? だからあいつは、姫さんと踊りたいがために武闘会で優勝し、そして念願叶って、着飾った綺麗な姫さんを一番近くで拝んで惚けてやがんだ。一見すました顔してるがな、手と足があってねぇんだよ。くくく」
「……ならば、黒陵国以外での開催地において初戦敗退していたのは」
「やる気がねぇだけの、ただの棄権」
「なんと……! しかしそれをハン殿は知って……?」
「あいつは成人の部でも通用する。子羊の戦いに子狼を投じて、わざわざ他の奴の戦意喪失させても悪ぃだろ? まあその分、俺がみっちりと扱いてやったがな」
「子羊の闘いに、敗退した我が倅……」
外見上は猛者風でも繊細な心を持つジウは、不出来な息子を嘆いてがっくりと肩を落としてしまった。
「まあまあ、将来化けるかもしんねぇし。あんたの血を引くんだからな。よぉし、じゃあそろそろ馬鹿息子の腑抜けた面を拝みにいこうかな。きっと今頃いじけてめそめそしてるはずだから」
「いじけ……?」
「ああ。愛しの姫さんは、姫さんが大好きな未来の"参謀"に、優勝者を自慢しに、馬鹿息子引き摺って走り回るだろうからな。じゃ俺、もう行くわ。口が悪い馬鹿息子が、報われねぇ腹いせに、きっとまた俺を呼ぶだろうから。早く親離れしてくれねぇと親は大変だよな、お互い」
ハンはひらひらと手を振り、ジウから去る。
「あの華奢なユウナ姫が、ハン殿のご子息を引き摺り走り回る? またまた冗談を」
笑うジウは、花よ蝶よと謳われる可憐な姫が、ハン指導のもと、ハン率いる警備兵を打ち負かしている事実を知らない。