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吼える月
第30章 予感
「ジウ殿。本当にシバは来るって言ったのか?」
「然り。なぜ来ぬのか……」
するとギルが遠くを見て、ふっと笑った。
「行け、シバはきっと出てくるから」
「え?」
「居づらいのだろう、民の前では」
直後、声音が変わった。それは、青龍が降臨した時の声音だ。
「緋陵では、我の加護は届かぬ。玄武をお前に託すぞ、玄武の武神将。くれぐれも、我の大切な優しい盟友を救ってくれ」
ずいと、厳めしい顔を突きつけられて唇同士が振り合うまでの距離になり、サクはぶるぶると背筋に寒いものを感じて、後方に跳ねて明るく言った。
「ああ! イタ公元気にしてまた来るから。昔話でも楽しんでくれよ」
「……ああ、楽しみにしているぞ。……ユウナ」
なんだか元気のない声の途中で、突然ギルの荒んだような声に戻った。
青龍が気を利かせて引っ込んだらしいが、なんともふたつの意識が交互して現れ、忙しくなってしまったギルである。
「やっと身体が戻った。……色々ありがとうな。お前がいたから、子供達は無事だった。……なにも出来ない、ただの小娘だと……そう思ってしまっていたことを謝る」
ギルは皆の前で頭を下げ、ユウナは慌ててそれをやめさせた。
「よく…生きて蒼陵に来てくれた」
ギルの言葉に、ユウナがぽろぽろと涙を流した。
「兄貴、駄目だよ、お嬢泣かせちゃ!!」
イルヒがユウナの背を撫でた、怒った。
「そんなつもりでは……」
「おい、なんで姫様ばかりなんだよ。俺への非礼は……」
サクがユウナを庇うと、ユウナは静かにサクの背中から横に出た。
「ありがとう、ギル。だけど、皆が無事だったのはあなたの力のおかげよ。ジウ殿に代わって、蒼陵の未来を作っていたのはあなた。私はただ……神獣がいるということを、皆にわかってもらいたかっただけ。自分の力でなんとかしようと、思って欲しかっただけ。
ありがとう、あなたがいてくれたから、あたしは優しい蒼陵の民に会えたの。がんばろうって気になった」