この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第30章 予感
「お嬢……」
「お姉さん……」
あちこちから啜り泣く声が聞こえた。
ユウナは指で涙を拭き取り、皆に言った。
「少しの間、この国の青龍の祠官と…武神将の息子をお借りします。青龍もその許可を下さり、ありがとうございます。そしてジウ殿も」
頭を下げたユウナを、ジウが止めた。
「やめられよ。…ユウナ姫。愚息を、どうぞ頼みまする」
今度はジウが頭を下げる。
「どうか、どうか……シバを、頼みまする!!」
その必死さに驚きながら、ユウナは静かに頷いた。
「戻って来たら…お父さんとして接してあげてね。シバは……寂しさを抱えているの。居場所を……どうか」
「……」
ジウは唇を震わせ、なにも言わなかった。
「じゃあそろそろ行こう。今、緋陵に出航するのに、とってもいい追い風が吹いている。良い天気だし、幸先よかったね!」
テオンが、朗らかな声を上げた。
「じゃ皆さん、さようなら。また! イルヒも、お手紙交換しましょうね!」
「勿論さ!」
「ワシちゃんも、運ぶのよろしくね」
ぴぇぇぇぇぇ!!
「では、ジウ殿……。俺は行きます」
「……サク殿……」
「わかっています。あいつを…守りますから」
「かたじけない。かたじけない、サク殿……」
「ジウ殿は、皆を守って下さい。ゲイが来る前に、イタ公復活させて戻ります。必ず戻りますから……」
サクはジウの目を強く見た。
「親父みてぇに、死んだら許さねぇからな!」
サクの震える声に気づき、ジウは何度も声を詰まらせたままで頷いた。
「あんたを頼れと親父は言った。これは遺言、約束だぞ!」
ジウは大きく頷いた。
「では、行ってきます!!」
手を振りながら歩き出した三人の後ろを、当然のようにユエと女とワシがついてくる。
「ちょっと! なに一緒に行こうとするのさ!」
「ユエは…お見送りにきたの」
ぴぇぇぇぇ!!
「そう、ワシちゃんと同じ。船が出るまで一緒に……」
「じゃ、あたいも!」
抜け駆けされないようにと牽制しているのだが、その顔はユエの笑いを誘うだけのものにしか過ぎず、ユエは笑ってばかりいた。