この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
◇◇◇
生温かい風に煽られたように、ぱちぱちと焚き火の火が爆ぜる。
赤い月の真下、闇に包まれた緋陵の国の入り口付近の大きな岩間で、初めての夜を明かそうとしている集団があった。
倭陵東部、神獣青龍が守る蒼陵国の祠官…になろうとしている幼顔のテオンと、青龍と祠官に仕える現武神将の隠し子であり、奇跡的に母親似の青く輝く美貌だけを持てた、シバ=チンロン。テオンの後ろの大きな岩に背を凭れさせ、テオンを見守るように座っている。
そしてテオンの横で焚き火にあたっているのは、黒陵国の亡き祠官の娘である銀の色の髪をしたユウナ姫と、その護衛役から玄武の武神将に昇格したばかりのサク=シェンウ。
四人は蒼陵国から船で、倭陵大陸の南方にある緋陵国に来たのだが、境界を越えた途端、緋陵から凄まじい大砲の攻撃を受けてしまい、船は大破。なんとか密やかに緋陵側の沖に着いたものの、真っ黒い岩ばかりがごろごろしている道なき道では方向が掴めず。
陽光の熱に温度を上げたのか、灼熱となっている黒い岩や砂岩を、なんとか踏み越えながら坂道を上へと進んで来たのだが、陽が落ちれば夜の帳(とばり)が下りる。
空が黒く染まるにつれて、肌寒く思うくらいには気温が下がって活動しやすくはなるが、女子供がいるのに(テオンは実際、最年長なのだが)、暗闇でこの足場を悪くさせる岩を越えて進むのは危険だと、一旦野宿して翌朝、行動を再開することにしたのだった。
昼夜の寒暖の差でユウナが体調を崩したら困ると、サクは火をつけようとしたのだが、如何せん、黒い岩だらけの国には薪に出来る材木が存在していなかった。
"この岩でも燃えればなあ"とぼやいて岩と岩を擦り合わせて熾(おこ)した火は、あろうことか本当に岩を燃やしたのだった。
――うわっ、燃える岩ってなんだよ!
一度燃えれば、かなりの時間高温で燃え続け、炎が風に消えることはなく。照明代わりにすることも出来るようだ。
彼らは、蒼陵の女達がたんと持たせてくれた、にぎりめしと干し魚を火に炙って、温かいところを口にし、……そして、食事を終えた今に至る。