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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
「じゃあ皆、復習するよ? この国でやらねばならないこと。
まず、"溶岩の中にいる炎の鳥の涙"を手に入れて、イタチちゃん…玄武を復活させる!」
そのテオンの言葉に、ユウナはごくりと唾を飲み込んだ。
イタチとは、ユウナの首に巻かれている…この緋陵においては、暑苦しくて放り捨てたくなるような、白い毛がふさふさして胴が異様に長い小動物のことである。
今までいた海の国では、必須となった温かいこの"襟巻き"も、陽光が差す時間の緋陵では、体力を奪うだけの枷にしかならないが、ユウナは眠り続けるイタチを離そうとしなかった。
もしイタチが目覚めた時に、ひやっと寒い思いをさせたくないのと、イタチの生命の息吹を、熱としてユウナは傍で感じていたかったのだ。
ユウナは、このイタチが外観からして大好きだった。
そしてこのイタチは……、ユウナの国の神獣でもあり、サクとの異例な契約により、サクの想起によって得られた姿である――。
ユウナがそれを知ったのは、船の上でのことだった。
――ええええ!?
――ええええって、姫様、今まで知らずにいたんですか!?
ユウナ以上にサクが驚いた。
――だって、まさかあたしがお祈りしている玄武だとは……。確かに玄武の加護があった時、イタ公ちゃんはいたけど……。イタ公ちゃんの物言いは、ちょっと偉そうだけれど……。玄武が、イタチなんて…。
最初、イタチが玄武のはずがないと笑い転げていたユウナであったが、サクだけではなくテオンもシバも、真面目な顔で揃って否定する。
――姫様。最初は小さくとも、玄武らしき"亀"見えていたでしょう? それに大体、二足歩行して人間の言葉を喋れるイタチ、そこいらにいますか?
――魔物が神獣の力を使えると?
――お姉さん、青龍が認めているんだよ?
三人一同、イタチが玄武だと言うものだから、ユウナは今までのことを色々思い返してみる。
そう、最初は確かに小亀だったのだ。
やがて――。
――ええええ!? あたしが尻尾ぎゅうぎゅう引っ張ったり、小さなお鼻摘まんだり、擽ったりしてたの……本当に玄武だったというの!?
もしそうであるのなら、イタチが目覚めたら、怖れ多くも神獣を愛玩していた今までの非礼を、平身低頭、まず詫びなくてはならないとユウナは震え上がった。