この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第6章 変幻
サクの舌の動きひとつで、ユウナの体はびくびく跳ねる。
そこに抵抗がないのは、サクが金銀と同じ"男"だと認識して敵対心を持つよりも、サクだからと安心している心地が強いせいだった。
絶大なる信頼感。
それを与えられるのはサクの特質でもあり……弱みでもあった。
その眼差しが愛おしげに細められていることは、サクの悪戯のような舌遣いに翻弄されるユウナは気づかない。
サクが必死に自らの欲望を押し殺し、余裕めいて見せていることも。
そう、あくまでこれは悪戯のような"洗浄"の域を出ていないのだ。
サクなりにそれは心得ていた。
これは愛ある行為ではないと。
ユウナに安心感を与える為の、荒療治だった。
体に嫌悪を抱くのであれば、体からしか解放は得られない。
ユウナの体は綺麗なのだと認識させるために、サクもまた……男としてぎりぎりの線でユウナに触れていた。
我武者羅に触れて唇を落としたいのを堪えて。
激しい愛を口にしたいのを我慢して。
ただひたすら、いつも通りの態度で、ユウナの心を解すことだけ。
サクの中の荒れ狂う"男"を見せれば、間違いなくユウナは永遠に男に対して心を閉ざす。体だけではない、心までも。
この世界の半分は男で出来ている。
半分がユウナの敵になってしまったら、ユウナはまた死のうとしてしまう。
それではいけないのだ。
……自分は7日でいなくなる身。
自分がいなくても、ユウナが生きられるようにしなくては。
ユウナからの信頼感を感じればこそ、そこに女としての情がないとわかればこそに成り立つ、今の"洗浄"という名目の触れあい。
"男"として意識して貰いたい。
"男"として抱きたい。
その欲を極限までに抑えるサクは、それでも満足していた。
死ぬ前にユウナの体に触れることが出来たと。
たとえユウナにとっては悪戯めいたものであっても、サクにとっては愛戯だった。愛しいからしている行為だった。