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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
ユウナの目指すのも、テオンと同じ祠官――。
黒陵の民は僅かでも残っているのか、考えるだけで悲しくなるが、それでも必ず黒陵を復興したいとユウナは思っている。
蒼陵のように、神獣を囲んでわいわいと出来るのなら、なんて素敵だろう。民と共にある国を興したい…ユウナはそう思うのだ。
玄武は、こんなに弱虫な自分を祠官と認めてくれるだろうか――。
「武闘会が開催されなくて、仮にお兄さんが、お母さんの身内の武神将達に歓迎されたとして。問題は青龍が言ってた、"溶岩の中にいる炎の鳥"だ。
溶岩の位置がわかったとして、その炎の鳥とは、なにかをたとえているのか、実際そんな鳥がいるのか。火を司る神獣…朱雀となにが違うのか。朱雀の仲間である青龍もわからないなら、かなり難解なことだよね…。玄武は知っているのかなあ…」
テオンは困った顔をすると、サクがぼやいた。
「神獣同士は干渉し合わないのが鉄則らしいから、イタ公もこの国事情はわからねぇかもな。……炎の鳥、か。普通は焼き鳥だよな。溶岩の中で、さらに自分も燃えていれば」
サクが深いため息をついた。
「絶対ワシにはできねぇ芸当だ」
サクはワシという名の、白陵の森育ちらしい…巨大な鷹を思い出した。
従順で果敢で、障害を避けて凄まじい早さで飛べるのに、十やそこらの小娘の頼みを聞いて、手紙を運ぶことだけをすることになった、才能を持ち腐れた鳥。
「涙というのもわからないね。たとえなのか本当なのか。本当に炎の鳥が泣いて涙を流すというのなら、どうやって泣かせるか」
「涙は……悲しい時以外にも、嬉しい時にも流れるものよね」
炎を見つめながら、ユウナが言う。
何度も何度も泣いていた自分を思い出しながら、今ここで生きている幸福を噛みしめつつ――。