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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
「そうだね、お姉さん。そうした喜怒哀楽が、その炎の鳥にあれば…の話。こちらの言葉を理解できるあの大きな鳥達のように、そう簡単にいかない気がするんだ。
溶岩の中にいるその鳥が、神獣の朱雀であるのなら、ひとの言葉を理解して貰えるかもしれないけれど、神獣ではない怪鳥であるのなら、どうすればいいのか……」
「テオン。神獣朱雀については、青龍やあの男はなにか言ってなかったのか」
シバが聞くあの男とは、父である青龍の武神将…ジウのことだ。
「青龍もジウも、とにかく気性が激しいとしか言わないんだ。ふたりともかなり苦手そうだった。……相当だと思うよ」
「相当だろうな、お袋切れたら凄かったから」
サクは家が壊れるかと思うくらいの、毎度の夫婦喧嘩を思いだして、顔を顰めた。喧嘩と言っても、サラに弱いハンが手出しはしないのだが、サラは本気でかかってくる。
そして、残骸の片付けをするのは、いつもサクだった。
どうしたらここまで女が凶暴になれるのだろうと、いつも思っていたが、それは神獣からしての特質らしい。
サクは懐から、サラから貰った赤い鞘を取り出した。
「これはお袋が愛用していた武器。これだけをもって親父のところに嫁いできたもので、お袋の刀だったんだ……。これが…なにかの役に立たないかな…」
それは鞘だけに見えるが、中に刃がしまわれて、振り方によって刃は節になって曲がりもすれば、まっすぐに伸びて短剣にも長剣にもなる。
亡き母の遺品――。
「お母さんのお兄さん達に対する思いに、期待するしかないね……」
テオンは、微苦笑した。