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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
  


「俺は、シバにだって、テオンにだって妬いてます」

「まあ!」


 ユウナがあまりに不快そうな顔をしたために、サクは眉間に皺を寄せて低い声で訊いた。


「なにか?」

「いいえ……」
 

 ユウナは、身を竦ませたように縮こまった。


「とにかく女々しいほどに嫉妬深い俺は、姫様が好きで好きでたまりません」

「……はい」


 自分は駄目な奴だといいたいのか、お前が好きなのだと言われているのか、なんとも消化不良のような微妙な心地にになりながらも、サクの強い語気に、ついつい畏まってしまうユウナである。


「だから姫様も、もっと俺に対して欲張りになってくれると嬉しいです。これが素直な俺の心情です。以上」


「欲張り?」


 サクは頷いた。


「もっと俺を独り占めして下さい。もっと俺を……縛りつけて下さい。姫様と距離を作ろうなど、馬鹿なことを考える前に。

……いえ、こういう言い方は卑怯ですね」



 サクはユウナに深々と頭を下げた。


「申し訳ありません、姫様。俺……武神将になったとはいえ、姫様の臣下には変わらねぇこと忘れて、俺の私情を隠しきれず、姫様に不快な思いをさせてしまいました。調子に乗りすぎていたようです」

「ちょ、サク、頭を上げて……」

「いえ、謝らせて下さい。本当に申し訳ありませんでした」

「サク……」


 そしてサクは頭を上げた。

「これだけは信じて下さい。姫様は、女として卑屈になる要素はありません。俺が姫様を嫌うことは、ありえません。そこは完全な姫様の誤解です」


 乱れた前髪から、真摯な眼差しがユウナを捕える。


「……今度から、姫様が目覚めたら隣にいます。姫様から離れません」


 それは愛の告白のように、胸に迫り来る強烈さをユウナは感じた。


「二度と距離を作ろうとはしません。

俺は……姫様の傍にいます。どんなことがあっても」


 
 とくり。

 
 ユウナの心の奥で狂喜のように共鳴するものがある。


 だが朧すぎるその姿を、ユウナはなぞることが出来ない。

 サクのまっすぐすぎる視線と言葉に、狼狽と喜悦半々に瞳を揺らすしか、今のユウナは出来なかった。


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