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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
がさりと音がした直後、ふたりの顔が薄闇に包まれていく。
火にくべられていた岩が崩れ、火影が小さくなったのだ。
「……いけね。ちょっと火、つけます」
サクがユウナに背を向けて、付近の大きな岩を手刀で手頃な大きさに砕き、それに引火していく。
再び場は明るくなり、パチパチと元気で軽快な音が大きく響くと、サクは満足そうに笑った。
元々サクは、山の国に生まれた民らしく、野外で生きる術はハンから色々教えられていた。さすがにその教えの中には、岩を燃やして暖をとるなどいう知識はなかったが、野宿暮らしになっても逞しく生きていけるだけの知識はある。
「ねぇ、サク」
サクは背後から声をかけられ、片膝をついた状態のままの身体をねじるようにして向けると、岩に座したままのユウナの次の言葉を待った。
ユウナは、ちろちろと炎を瞳に映しながら、サクをじっと見つめた。
「サクを信じようとしなかった、あたしも悪かったわ。ごめんなさい」
一国の姫であったにも関わらず、サクの誠意に触発されたように、ユウナは綺麗なお辞儀をして、素直に謝罪した。
「ちょっと待って下さいよ、姫様は謝ることはないんです! 悪いのは俺ですから!」
サクは驚きのあまり上擦った声を響かせて慌ててユウナを止めたが、ユウナは硬い表情で頭を横に振り、さらに深く頭を下げた。
「サク、ごめんなさい」
サクは呆然とユウナを見た。
サクの記憶の中でのユウナはいつも負けん気が強くて、今回のように大きな言い争いをした時などは特に意地になって、サクに自分から素直に謝ることはなかった。
元来の勝気な性格に加え、サクは年上の幼馴染みだとはいえ、目下だという意識が無意識に働いていたのだ。サクから許してくれるという甘えもある。