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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
だが今――。
ユウナは、臣下であるサクを対等のものとして扱った。彼女の勘違いから始まったものならと、余計に、頭を下げて謝るのが当然なのだとユウナは思い、それを実行に移したのだった。
その当然のことが今まで出来なかった過去を思えば、ユウナの中でサクに対する意識はかなり前とは違ってきているのだともいえた。
……たとえ、サクに対する熱い想いを思い出せずにいたとしても。
姫という身分は関係なく、ユウナはひとりの人間として、サクを己と同じ目線から許容しようとしている…そんな意志の現れであり、サクに対する敬意の表れでもあった。
そんな変化に驚くサクは、ユウナの心境を慮(おもんぱか)るよりも、逆に背中がざわざわするほど気味が悪くて仕方がない。悲しいかな、それほどサクの従僕精神は身体に染みついていた。
「姫様、もうやめて下さい。悪かったのは俺の態度で……」
「違うわ、あたしの勘違いが……」
「違います! 俺がぐだぐだしてたから」
「違うってば! あたしがサクに勝手な妄想をしたから」
「俺のせいです!」
「あたしのせい!」
「俺です!」
「あたしよ!」
最後はいつも通りにムキになって睨み合い――
そしてふたりは、大きく笑い出した。
ようやく気まずかった空気が元に戻り、ふたりは息を吸える状況に好転したことを悟った。
「ありがとうサク。あたし勇気を出して、訊いてみてよかったわ。そうでなければ、ずっともやもやしていたもの。サクに嫌われたって」
ユウナは、もやもやが晴れてすっきりとしたらしい顔をサクに向けたが、それを見るサクは、なにか微妙な違和感を感じていた。
いや、確かにそれはユウナの眼差しではあるのだ。それは間違いないのだが、サクがユウナを避けるに至る直前の、そう…"治療"を施す前と、なにか違っているように思えたのだ。
「サク?」
サクを見る、その目の強さが。