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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
「どうしたの?」
強かった眼差しの時でもその意味はわからぬサクではあったが、ユウナこそ、治療行為になにか心境の変化があったのではと疑ってしまうサクは、やはりそこにリュカの影をみてしまうのだが、堂々巡りになってしまう恐れがあるそれを、振り切るように頭を横に振った。
「姫様、明日は朝早いのでお休み下さい」
サクは立ち上がり、自分の上着を脱いでユウナにかけようとする。
「もうちょっと起きてる。シバとテオン達が帰ってくるまで」
「あいつらが出て行ってから、まだひと刻もたっていません。帰るのはまだまだ後なんで……」
「じゃあサクも寝る?」
「俺は火の番を……」
「だったらあたしも起きてる!」
折角サクと和解したのだから、まだずっとサクと話していたいユウナは、座っていた岩から下りて、サクを背にした火の前で、いじけたように膝を立てた足を両腕で抱えて座りこむ。
サクは誠意をみせてくれたのはわかる。だが、眠って目が覚めたら、またサクがよそよそしかったらと思うと、まだ不安は完全に払拭はされていないのだ。だからもう少しだけ……、もうこの先絶対サクが避けることはないのだと、安心して眠れるようになるまでサクと一緒にいたかった。
深刻なまでサクに飢えていたということに、ユウナ自身気づかぬままに。
「姫様」
「やっ! あたしサクと起きてる!」
「姫様っ!」
「眠くないもの! 寝るならサクと寝るの!」
ユウナは頬を膨らませて、上着を手にしたまま立つサクを不満げに見上げた。
「姫様……。子供じゃないんですから」
「サクは嫌なの!? あたしと一緒に起きているのは!?」
「嫌じゃねぇんですけど、そろそろ俺の理性も……」
「嫌じゃないなら、あたしはサクと一緒に寝るの!!」
頭をがしがしと掻きながらのサクの真意を、完全無視したユウナは気づかない。
サクと一緒に寝たいと駄々を捏ねれば捏ねるほど、サクの理性が緩んでいくことに。
ユウナの心に居座るリュカの影を消したいと切望するサクにとって、一緒に寝たいというユウナの駄々は、ユウナを愛でたいというサクの情欲を煽るものだったということに。