この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
「……寝る」
どう躱していいのかわからぬユウナの安易な提案は、却下された。
「駄目です。俺眠くねぇもん」
「寝る!」
「どうしても?」
「寝る!」
寝るの言葉しか発さないのは、緊張しているのだろうとサクは思う。それが嬉しい。緊張ということは、男として意識していることだろうから。
そんなユウナを、簡単に離したくなかった。
満たされなかった想いが、サクと一緒にいたいと駄々を捏ねたユウナのように、分別ない幼子のように暴れ出した。
ユウナを離したくない。
ユウナの女を……感じたい。
もう少しだけ、もう少し――。
サクはユウナを抱いたまま、そのまま岩の上で仰向けになり、自分の身体に乗るユウナの身体を横向きにして抱きしめると、驚いた顔のままのユウナの顔を、至近距離から覗き込むようにして言った。
「ではここで、お休みください」
「っ!! 普通に寝る……」
「岩は冷てぇし、痛いです。俺の身体の上で寝て下さい」
「サ、サク……っ」
慌てるユウナに、サクの目は熱を帯びたまま、動じることなくまっすぐ向かう。切なげに瞳を揺らしながら。
「俺が嫌? 目覚めたら俺に傍にいて欲しいって、嘘?」
「違……っ」
「だったら、一緒に寝ましょう、姫様。俺の腕の中にいて」
微笑むサクの顔が、次第に妖艶な男のものに変わるのをユウナは感じた。
薄闇の中、誘うようにサクは美しく笑う。
これ以上踏み入れるなと、心のどこかで警鐘が鳴るのだが、ユウナはそれを抗いきることができなかった。
「………」
「………」
言葉ないままにかわす視線が熱すぎて。
サクの瞳に映る炎が妖しく揺れ始め、それがユウナに飛び火し、共に煽りあうようにして燃え出す。
ユウナは、サクを見つめる目を細めた。
熱い身体を燃え尽くしたいと思う心を、なにかが邪魔をしていた。
正体不明のなにかが――、ユウナの中のなにかが、サクの熱と重なるように暴れ出し、それを留めようとまた別のなにかが暴れていた。
荒狂う砂嵐のような心の中からは、なにも見いだせるものはなく。
苦しい――。
「は、ぁ……っ」
ユウナは、耐えきれずに詰まった息を吐き出した。