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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~

 
「……寝る」


 どう躱していいのかわからぬユウナの安易な提案は、却下された。


「駄目です。俺眠くねぇもん」

「寝る!」

「どうしても?」

「寝る!」


 寝るの言葉しか発さないのは、緊張しているのだろうとサクは思う。それが嬉しい。緊張ということは、男として意識していることだろうから。


 そんなユウナを、簡単に離したくなかった。

 満たされなかった想いが、サクと一緒にいたいと駄々を捏ねたユウナのように、分別ない幼子のように暴れ出した。


 ユウナを離したくない。

 ユウナの女を……感じたい。


 もう少しだけ、もう少し――。


 サクはユウナを抱いたまま、そのまま岩の上で仰向けになり、自分の身体に乗るユウナの身体を横向きにして抱きしめると、驚いた顔のままのユウナの顔を、至近距離から覗き込むようにして言った。


「ではここで、お休みください」

「っ!! 普通に寝る……」

「岩は冷てぇし、痛いです。俺の身体の上で寝て下さい」

「サ、サク……っ」


 慌てるユウナに、サクの目は熱を帯びたまま、動じることなくまっすぐ向かう。切なげに瞳を揺らしながら。


「俺が嫌? 目覚めたら俺に傍にいて欲しいって、嘘?」

「違……っ」

「だったら、一緒に寝ましょう、姫様。俺の腕の中にいて」


 微笑むサクの顔が、次第に妖艶な男のものに変わるのをユウナは感じた。

 薄闇の中、誘うようにサクは美しく笑う。

 
 これ以上踏み入れるなと、心のどこかで警鐘が鳴るのだが、ユウナはそれを抗いきることができなかった。


「………」

「………」


 言葉ないままにかわす視線が熱すぎて。

 サクの瞳に映る炎が妖しく揺れ始め、それがユウナに飛び火し、共に煽りあうようにして燃え出す。


 ユウナは、サクを見つめる目を細めた。


 熱い身体を燃え尽くしたいと思う心を、なにかが邪魔をしていた。

 正体不明のなにかが――、ユウナの中のなにかが、サクの熱と重なるように暴れ出し、それを留めようとまた別のなにかが暴れていた。


 荒狂う砂嵐のような心の中からは、なにも見いだせるものはなく。

 
 苦しい――。



「は、ぁ……っ」



 ユウナは、耐えきれずに詰まった息を吐き出した。



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