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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
 
 

「どうしました、姫様。……苦しい?」


 濡れた目を向けるサクが、指を伸ばしてユウナの唇に触れる。

 その瞬間、ユウナは目を細めてびくんと反応すると、反射的に感じているような甘い声を出してしまい、それに気づいて恥じらうように目を伏せた。


「ん?」


 その反応を見逃さず、逆に自分に反応してくれたのが嬉しくて、わざとなにもわからないふりをしながら、サクは、ユウナの唇に紅を塗っているかのように、濡れた内側に指を左右に滑らせる。


「ぁ……」

「どうしました?」


 サクの指は、歯の隙間からちらちらと見えるユウナの舌先を捕えて、くるくると回すように戯れる。

 自分の舌の代わりに――。


「……は……ふぅ、ん……ぅ」


 なされるがまま、潤んだ目で自分を見つめ続けるユウナの可愛らしい反応に、サクは喉を鳴らした。


 そして思い出すのだ。自分を絶望的に落込ませるに至った…リュカと呼んだのが、この可愛らしい唇であることを。


 そして同じこの唇が告げたのだ。


――お願い……。あたしから離れないで。

――……すぐ隣にいて。距離を作らないで。


 そして正直に語った己の嫉妬心に、驚いた声を上げたのもこの唇。


 この唇の奥にあるのは、どんな真実なのだろう。

 ユウナが本当に傍に望むのは、誰なのだろう。


 この唇に触れたら……ユウナの本心がわかるのだろうか。


 距離を作ることを嫌がるのなら、距離を縮めてもいいのだろうか。

 欲しくてたまらない、愛おしすぎるこの姫と。

 

「姫様……」


 サクはユウナの口から指を抜いて、舌の愛撫に顔を紅潮させたユウナの目を覗き込んだ。


 熱い視線が絡み合う。

 やがて憂いを帯びたサクの瞳が、苦しげに細められ、


 そして――。



 サクは傍に置いていた自分の上着を、ユウナの顔の上に放るようにして被せた。


「ぷっ……」


 突然顔にかかった上着にびっくりして、もぞもぞとユウナが顔を出した時だった。



 サクがユウナに腕枕をしたまま、上から顔を近づけ……、


「っ!!?」


 上着の上から、ユウナの唇に自らの唇を押し当てたのは。



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