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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
「ねぇ、サク。シバは機嫌が悪くなった理由は言わないし、テオンは"ちっちゃい"と言えば怒るし。なんでなのかわかる?」
ユウナに手を差し伸べて、自分がいる上の岩へとユウナを引き揚げ続けていたサクは、テオン達がいる高さの岩にユウナを移動させると、元凶ユウナの純粋な質問に、非常に難しそうな顔をして言う。
「姫様、昨夜はどこまで記憶がありますか?」
「昨夜?」
「俺とふたりになって」
「……ああ、サクと仲直りしてお互い謝って……」
「うんうん、で?」
「……あれ? なんか気持ちよくなった途端に記憶がないわ。あら、途中で寝ちゃったのね」
するとサクが、岩から転げ落ちそうなほどに沈みこんだ。
「サク、どうしたの? 体調悪いの?」
「……いいえ、俺の体調はすこぶるよく、どこもかしこもピンピン……わっ、シバ刀向けるな! ……ということで、俺は元気です、ご心配なく」
「だったらなんで? 昨夜みたいにちゃんと言って?」
「いや、大したことじゃねぇんです。なんというか、男として……なんか俺、ちっちゃいなと……」
「ちっちゃい!? お兄さんまで言うの!?」
「いや、そっちの方は十分にちゃんとあると思うから……シバ、今のはテオンに俺はただ答えただけ! 刀引っ込めろ! ……はぁ、……まぁ、俺が悪かったのだし。……本当に悪いとは思っているんだけど……」
サクなりに服一枚あった間接的とはいえ、口づけをしてしまったことを反省していたのだ。
今でも柔らかなユウナの唇の感触は、ありありと思い出せるくらいなのだが、そこには甘美さはない。罪悪感が上書きしてしまっていた。