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吼える月
第31章 旅路 ~第三部 朱雀の章~
今までは、呪詛だの媚薬入りの蜂蜜だの不可抗力的な事態があって、ユウナの身体に触れる以上のことをしていた。
それでも唇を重ね合うことだけは、ユウナへの愛情の証明として、そして両想いになるための願掛けにと、決してしてこなかった。理性で必死に押し殺してきたのに。
しかも合意ではなく、一方的。
ユウナの味方でいないといけないはずの自分も、唇を蹂躙してしまったのだ。しようとする意志を見せてしまったのだ。
最悪だ……。
昨夜のことは、完全に自分が我を失ってしまった暴走の結果だ。
これでは口先だけの、ただの盛った男。
辛い体験をしてきたユウナに、過去を思い出させるような"男"を見せないようにと、慎重にしてきたはずだったのに――。
そう思うサクは、怒られた子犬のようにしゅんと頭を垂れ、ユウナが目覚めるまで、己への罰としてその足元に正座し続けていた。
就寝中は主人である姫を岩の上で寝かすことができなかったサクは、せめて腕枕だけでもしようとしたが、シバが卑猥だと再び刀を突きつけてくるため、結局岩の上に疲れを取る薬草を振りまいてユウナを寝かせていた。
ユウナに不埒なことをしないようにと、小姑のようにシバが腕を組んで横に張り付き、そしてテオンは"ちっちゃい"を気にして、ぶつぶつと独りごちていた。
ユウナ以外の人間はそれぞれ思うところがあって、眠れぬ夜を過ごしていたのだが。
――おはようございます、……姫様。
目覚めたユウナから張り手を食らうことすら覚悟して、瞼を上げたユウナに強張った声をかけたというのに。
――あらサク、おはよう。ふぁ…よく寝た気分よ。あら、サクの上着を身体にかけてくれたのね、ありがとう。
ユウナは憎らしいほどすっきりと爽やかな顔。
――良いお天気ね。イタ公ちゃんは……まあサクが首に巻いていてくれたのね。貸して? 玄武…いえ、イタ公ちゃんおはよう。…早く目覚めてね。