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吼える月
第32章 多難
どんなに砂漠を進みたくても、歩けば熱砂、道はなく。いざ進んでみれば穴があき、巨大な蠍のような生物が命を狙って襲いかかる。これからの危険度はさらに増すことはあっても、減りはしない。
一行は途方に暮れたように、各々熱砂が広がる景色を眺めたが、諦めようと言い出す者はなかった。言い出そうともせず、必死に状況打破の策を講じていた。
彼らは、他国を救う為に自ら危険な目にあっている、本当に慈愛深かったイタチをどうしても助けたかった。
神獣同士が結んだ、盟約を違反した罰として受けるものを、見るからに弱々しいイタチが耐えられねばイタチは長き眠りに入る。
彼らはイタチが目覚めるまでの倭陵が陥る危険性を危惧しているのではなく、倭陵を悪者の手から守ろうという正義心からでもなく。また、神獣に対する倭陵の民としての義務でもなく、苦難を共にして戦った仲間としての、等身大の意識だった。
ユウナは友達として。サクは師であり相棒として。
シバは卑猥ながらも、体を張って【海吾】を守ろうとしてくれた同志として。テオンは、蒼陵を救う手助けをしてくれた玄武に関するものに好意を持ち、そして玄武の身を案じた青龍の代わりに。
彼らにとって玄武の小さな神獣は、人に乗り移る青龍より身近に思えると同時に、逆に守りたくなる存在だった。
「あの巨大蠍、一匹だけとは限らねぇな」
やがて、各々の考えをまとめるかのように、腕を組んだサクが話を切り出した。
それは、頑張ろうという気持ちを削ぐような不穏な言葉だったが、誰もが予感していたことでもある。テオンとユウナは硬い顔をしながら同時に頷き、目を細めたシバは、砂漠を見渡してサクの言葉を受けた。
「ああ。テオンを沈めた渦のようなあの穴も、なぜ見計らったかのように突然発生したかわからない。……今は、どこも穴などあいていない。テオンが沈んだ理由は、あの蠍が餌とするための蠍の作為的な操作だったのか?」