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吼える月
第32章 多難
「いや……僕わけもわからず走ってしまったけれど、突然ガクンとした記憶だけが……」
落ち着きを取り戻したテオンが、調理用の小さな小刀の柄で穴を掘り、その上に近くの砂をかけた。そして見つけた小岩を、その穴との境界に落としてみる。
「お姉さんの言う通り。形が違ってくるね。僕が沈んだ時は、僕を中心に円を描いていた気がする。そういう形になるのは……」
穴に砂をかけ直したテオンは、穴の中心に石を落す。
「真ん中じゃないと駄目だ」
石の回りは、テオンが沈んだ時のように綺麗に円を描いて砂が流れ込んでくる。
「もともとそこに穴が掘られているという説をとると、中心まで走って行く間、なんでテオンは、徐々にでも沈まなかったのかということになるわね」
「テオンは飛んだり跳ねたりして歩いたわけじゃねぇ。だとしたら、もうそとつの可能性……」
サクは、鋭い目で言う。
「砂漠には、蠍以外にまたなにかがいるということ」
三人は、訝し気な表情でサクを見た。
「どう考えてもテオンが突然沈んだのは作為的だ。
元からでもねぇ、蠍のせいでもなさそうだ……だったら、可能性としてあげられるのは、他になにかがいて様子を見ていて、穴を生んで獲物をひっかけて、そこに向けて蠍を動かしているということ。蠍がだめだとしても、深くに沈ませようとしてる。下に何があるかはわからんが」
「お兄さん、僕……なにも見えないけど」
「あたしもなにも見えないわ」
「お前、テオンが沈んだ間、なにか見たのか?」
砂漠を見渡す二人の横で、シバが訊く。
「いや、見てねぇ。だが、どう考えても頃合い測られてるだろ」
「だがそうなると……」