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吼える月
第32章 多難
「つまり……」
サクが腕組みをして難しい顔をして言った。
「その"なにか"が現れるのは、然程広い範囲ではなく。それでも、神獣の力を持つ俺達がなにも見えず、持たねぇ姫様とテオンが見えると」
「まあ、サク! あたしだってイタ公ちゃんの力を使えたわ! 海の中にも居れたのよ?」
サクの仲間から外されたようで、不満に思うユウナが頬を膨らませた。
「それはイタ公本人が傍にいたからです。確かに、玄武の力は微量なら今でも姫様の体内にあります。俺の耳飾りを通して姫様に流れ込んで、姫様を守っているので。邪気程度は、姫様はその耳飾りをつけているだけで、何もしなくても撥ね除けられるはずです」
「へえ、お姉さんの耳飾り、確かに初めて会った船で、お兄さんがしていたものだよね。そんなにすごいものだったんだ。なんの牙なんだろう。なにかの動物の牙……?」
テオンがユウナの耳からぶら下がる牙を手に取ってよく見ようとした時、サクがテオンの手をはたいた。
「これは姫様との儀式の証だ。俺が今までしていたこれに不用意に触れたせいで、俺が姫様を護れなくなったら……」
「つまり、お前が大事にしていたものを、誰も触れさせずにユウナにしていて欲しいわけだな、守護のせいにして」
「おい、シバ! これはただの耳飾りじゃねぇんだ。俺の気が充填しているから、姫様と離れていてもいつでも俺は、姫様を感じ……」
「感じ取りたいわけだ、お兄さん。わかったよ、お兄さん。触らないで上げるから。二桁の片想い中に、ごめんね?」
サクは別に下心あって耳飾りを外すのを止めたわけでもないが、こうして下心を述べられれば、否定出来る要素もなく、誤解されたまま黙り込む羽目になった。
「……?」
ユウナは会話の内容がよく聞こえず、ずっとイタチをなで続けていた。