この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
吼える月
第32章 多難
「ほらね、やっぱり!」
それは砂を吹き上げながら、横に移動する。
そして砂が舞っているところが固定されたのを見て、今度はテオンが砂を横にどける。
そこにあったのは――。
「なんだろ、これ」
真っ黒い穴がふたつ。
「テオン、気をつけてね」
「うん……」
テオンはその穴に砂をかけてみた。
「ぶへぇぇぇぇん!! ぶへぇぇぇぇん!!」
音が盛大に連続し、砂がさらに高く吹き上がりながら左右に激しく移動する。
「な、なにかしら?」
「わからないけど……移動する穴? 穴の中になにかいるのかな」
その正体を見極めるために、テオンが果敢に挑戦する。
固定した場所の砂を静かに除けて、その穴に手を突っ込む!!
「ぶへぇぇぇぇん!!」
なにかネバネバしたものが砂とともに吹き上がる。
「うわあああああ!!」
「テオン、手、手!!」
ユウナが悲鳴のような声を上げた。
テオンの手が、その白いねばねばしたものに覆われていたからだ。
「だ、大丈夫、別に変化ないみたい。なんだろう、このねばねば……」
「ぶへぇぇぇぇん!!」
そして、砂漠に潜んでいた"それ"が姿を現した。
巨大な四肢を持つ、大きな大きな馬のような生物だった。
小さな耳を揺らし、目は大きくまつげがばさばさしており、顔には砂だらけの汚らしい不揃いの長いひげがついているようで、どう見てもそれは馬ではなかった。
「なにこれ……」
ユウナが絶句したのは、それがやけに鼻の穴が大きかったからだ。
「うわわわ、これ大きいけど、駱駝(ラクダ)って生き物だよ!! じゃあ僕が手を突っ込んだ黒い穴って……」
テオンは穴と手を見比べると、泣きそうな声で言った。
「鼻の穴!? だったらこのねばねばしたものは!!」
『鼻で我を押さえるとは、やるのぅ小童』
それは心に響いた声。
そこには、ネバネバとした鼻水を垂らす鼻を持つ、大きなラクダしかいなかった。