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吼える月
第32章 多難
「お前が朱雀だというのなら、なんでこうなったのさ。大体緋陵は砂漠の国ではないんだそ? 岩の国! そこに場違いなラクダがなんで降って湧くのさ。どこの国にも、ラクダ生産しているところなんてないぞ!?」
『……我にもなにがなんだかわからぬのだ。いつも我は朱雀殿の祭壇のところにいたのだが、それず気がつくと、我はこの姿でこの砂漠を歩いていたのだ』
「いつからだよ?」
サクの問いに、ラクダは少し頭を傾げた。
『それは何十万年も前に思えるし、昨日のようにも思え、記憶が曖昧なのだ。ただわかっていたことは我は朱雀で緋陵の民から崇められていた記憶と、いずれ我を助ける者が現れるということ』
「なんとも曖昧で、都合いいことを……」
腕組みをするサクが、顔を引きつらせて言う。
「そんなの、記憶失ってれば誰だっていえるぞ。大体神獣がそれぞれの国の祭壇で祀られているのは倭陵に居るなら周知の事実だし、今の自分に不服だったら、いつか自分は英雄になれると妄想すりゃ……」
「だけどサク。たとえ妄想であろうと、ラクダちゃんがこうしてお話するのは事実よ?」
「姫様……この奇妙な生き物にラクダ……ちゃん?」
「ええ。あたしは朱雀だと信じるわ」
喜んで興奮したラクダが鼻息でユウナの髪と服を揺らす。
「あら気持ちいい。暑かったから嬉しいわ」
「姫様、なに脳天気な……。大体これの姿がラクダとしても! なんで朱雀がラクダなんですか!」
「それを言うなら、なんで玄武がイタチなの?」
ユウナは首を傾げる。
「イタ公ちゃん、最初は心の中で話しかけてたわ。神獣がなにかの動物に宿り、人間にわかる言葉でお話してくれただけじゃないの? 青龍だってギルの身体に乗り移って、お話してくれたのよ? それがどうして、朱雀はラクダではいけないの?」
「姫様……」