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吼える月
第32章 多難
「初めて見たラクダちゃんは、確かに面白い顔をしているけれど、慣れれば愛嬌あって可愛いし。理由がなんであれ、サクとシバが戦っていた蠍を引かせてくれたのよ。ここにみんなが集まったら、蠍に命令して殺そうとしてもいいのに。ねぇ、ラクダちゃんの外見だけで判断していない?」
ユウナの言葉に、誰もが押し黙った。
ユウナの言葉は正論すぎたのだ。ラクダではなくて見慣れている動物の、たとえば美馬であったのなら、ここまで不信感を持たないだろう。
言われてみれば、確かに蠍は出現する気配はないし、砂が穴になって崩れていく気配も見せない。先ほどのような足止めするようなものは、一切なくなっていたのだ。
助けてくれていると言っても、過言ではないだろう。
『玄武、青龍……』
ユウナが皆の不信感を取り除いている間、ラクダは大きな目から涙を流して泣いていた。
『懐かしや我が同胞……。この優しき少女を使わしめたのは玄武か。お前達はすべて玄武の加護を?』
「お前朱雀って言うのなら、神獣の力ねぇのかよ? 俺と姫様が玄武、そこのチビとでかいのが青龍。なあシバ、このラクダから、神獣の力感じるか?」
「いや……まったく、全然。お前は?」
「俺もさっぱりだ」
「ねぇ、まずこのラクダの話を聞いてみようよ」
テオンの提案で、まずは話を聞いてみることにした。
『この姿になった我には、力がまったくなくなってしまったのだ。ただあるのは緋陵での記憶と、誰かが我を助けにきて神獣に戻してくれる確信。我とてこの妙な確信がなければ、こんな場所にはおらぬ。ひとりぽっちだった我を慰めてくれたのが、あの蠍だった』
「お前、あの凶暴な巨大蠍と仲良しだったのかよ!?」
この、鷹に怯える小心者のラクダと、あの凶暴な蠍が親しいなど、想像すらできない。
『ああ。なんであやつらがこの緋陵に出現したかはわからぬ。だがあやつらは我を食おうとせず、それどころか我が生き延びるための場所を教えてくれた。言葉はなくともな』
「ラクダちゃんが居た場所?」
『そうだ玄武の姫。そこには水がある。そして木々があり、果物もある』
「砂漠の下に?」
テオンが驚いた声を出す。