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吼える月
第33章 出芽
◇◇◇
「きゃはははははは!」
愛くるしい笑い声が、砂漠に響き渡る。
「サクちゃん、ぽっかーん! やったぁぁぁぁ!」
なぜ今この場にいて、なぜこんな登場をしたのか、理解に苦しむサクの表情が、幼女……ユエには、よほど痛快だったらしい。
朗らかな笑い声がしばし響いた後、ユエが大きな蠍の背から降りようとしたが、小さな身体ではそれがすんなりといかず、何度か足をばたばたさせたのち、手を滑らして落下しそうになる。
サクが動くよりも早く蠍が動き、サク達には凶暴さだけを見せつけた大きな尾の鋏は、蠍はユエの服の裾を器用に摘まむようにして掴むと、ユエをぶらさげながら、ゆっくりと砂に下ろした。
「蠍ちゃん、ありがとう~。優しいね~」
ユエは蠍の尾の表面を、小さな手で撫でて感謝の言葉を投げると、蠍は突如身体を反り返らせて起き上がり、その巨体を揺らすようにして踊らせた。
どうやらユエの言葉に反応した、蠍の喜びの動きらしい。
呆気にとられている一同の視線に気づくと、ユエはに照れたように笑う。
「降りるの、助けて貰っちゃった」
恐らくそこでは、よかったねと言うべきだろうことは一同もわかっていたが、なぜこうもユエが好待遇なのかが不思議だった一同にとっては、簡単に乗じられるものでもなかった。
「ユエちゃんは、鳥さんも蠍さんもお友達なのね、凄いわ!」
ひとりユウナだけが、感嘆する。
警戒なく素直に相手の懐に飛び込めるのは、ユウナの長所でもあるが、相手を信じやすいという点では弱点にもなる。
だが幼女は、ユウナの反応が嬉しかったようで、満面の笑みでユウナに飛びついて、自慢し始めた。
「そうなの! ユエ凄いでしょう?」
「ええ、凄いわ! あたしそんなことできないもの、羨ましいわ~」
「きゃははははは! ユウナちゃん、サクちゃんとは出来が違うね!」
「あたしは普通よ? サクは昔からお馬鹿さんで有名だったけど」
「きゃはははは! サクちゃん、やっぱりお馬鹿さんだったんだ!」
「そうよ、だけど今は……」
「誰が、お馬鹿さんだって?」
静かなる怒りを湛えたサクが、褒め称えようとしたユウナと、笑うユエの襟首を掴んで宙に持ち上げた。