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吼える月
第33章 出芽
「もうサク、あたし子供じゃないんだから!」
「子供の頃が懐かしいでしょう、姫様。よくこうやって悪いことしたら、親父に持ち上げられて、尻を叩かれていたじゃねぇですか」
「きゃはははは! それはユウナちゃんだけ?」
ユエのつぶらな瞳がサクに向いた。
「サクちゃんは、お父さんにおしりぺんぺんされない、とってもいい子だったの?」
純粋無垢な顔に、サクは……。
「ねぇ、シバ。ユエってすごいと思わない? あのお兄さんをすぐに黙らせたどころか、凄く落ち込ませたよ? 小さいのに凄いよね、今じゃあ大きいお兄さんの方が小さくなってるよ」
テオンが、背を向けて座り込んだサクを見て、こそこそとシバに言う。
大きい小さいを持ち出すあたり、やはりテオンにとっては小さいという形容は自尊心に関わることらしい。
「ああ。あいつを黙らせられるのは、ユウナだけかと思ったが、所詮あいつらはあの幼女と同じ精神年齢ということだな。だが、テオン。こいつをなんとかならないか」
シバが冷たい目を向けた先はラクダだ。
『イヒヒヒヒ、イヒヒヒヒヒ!! サラの子供も、サラと同じようにやはりぶら下げられて親に怒られていたのか。イヒヒヒヒ! サラの息子も、じゃじゃ馬同様尻をぺんぺんとは情けなや! そんなのが武神将になるなんてな、玄武もずいぶんと丸くなったものよ、イヒヒヒヒ!!』
大きな鼻の穴をさらに大きくさせ、砂漠に背をつけてひっくり返りながら、笑い転げているラクダ。
空に向けた前足、後ろ足同士をガツンガツンとぶつけて大きな音を立てながら興奮し、鼻水を垂らしながら激しい笑いを見せるラクダに、テオンは素っ気なく言った。
「……髪の毛、抜いちゃうよ?」
ぴたりと、ラクダの笑いは、動きと共に止まった。
ぴぇぇぇぇぇ!
そしてテオンから目で合図を貰った鷹がばさばさと翼を揺らすと、はっとしたラクダは飛び起きて、砂にまみれながら姿勢を正した。
シバはふぅとため息をひとつつき、ラクダの頭に二本毛があることを確認すると、疲れたような表情をしてぼやくのだった。
「なんでこいつらは緊張感がないんだ。……なんだか【海吾】の子供達といるようだな」
自分ひとりだけが大人だと、暗に示して。